2018年11月7日

発表報告Ⅱ.日本心理学会第82回大会

開発的ネットワーク」からみるキャリア観の現状

“あの人は人脈が広い。”というように、生活の中で時折出てくることば -「人脈」
9月末に日本心理学会で発表した研究テーマは、平たく言うと、この「人脈」について、“現代を生きる力となる”という角度で捉えた内容でした。

自分の現状を概ね肯定できる人ならば、誰しも今日と同じ明日を無意識に期待してしまうものです。「恒常」を求める生物としてはある意味自然な姿ですが、時代は移り、我々は変化を前提として生きる存在となりました。

前号で触れたとおり今では、キャリア・プランニングとは職務とのマッチングに留まらず、個人が適応能力を高めながらキャリアの自己開発と自己管理を行うことに資するアプローチとサポートへと意味を進化させています。その現代に、キャリアが持つ特徴に即したサポートとして有効である概念として以下の3つが考えられています。

1.  レジリエンス/Resilience
キャリア変更に伴って生じるストレスの緩衝と関連しうる。
2.  キャリア・アダプタビリティ/Career Adaptability
キャリア変更をキャリア発達の一現象として捉える、予想される職業発達課題に対する個人のレディネスおよび対処能力を示す。
3.  開発的ネットワーク/Developmental Networks
組織の枠組みを超え、さらに職務関連か否かにこだわらない複数の人的なつながりに注目し、キャリア成功のための個人の開発的ネットワーク

現在我々が手掛けている研究では、この3概念の関係について、個人がキャリア変化に対応するためには「キャリア・アダプタビリティ」を高める必要があり、それに関連、および、それをサポートするのが「レジリエンス」と「開発的ネットワーク」であろうと考えています。その考察の第一弾として、3概念のひとつ「開発的ネットワーク」の構造について検討することを目的に分析し、今回の学会にて報告を行いました。

◆調査の概要
<図1>
調査はWebで行い、職業キャリア・生活キャリア間の移動および、各キャリア間における移動など、様々なキャリアチェンジ経験者を含む、2069歳の男女2,000名を対象としました。
質問項目は下の<図1>に示す関連で構成されています。
膨大なデータからはいろいろな調査結果がみてとれますが今回は、対象の中で<正社員から正社員への転職経験>があると答えた711名の「開発的ネットワーク」についての結果に注目しました。なお「開発的ネットワーク」に関わるものとしての主な分析項目は「メンタリング尺度, PelligriniScandura2005)」と「キャリアレジリエンス尺度,坂柳ら(2015)」を参考に作成した13の項目を想定しました<下:表1>。
  
◆結果
<表1>
まず「開発的ネットワーク」と想定されるつながりはどのように認識されているのかを知るために、その構造を検討しました。開発的ネットワークに関するこれまでの研究<Murphy and Kram2010)>を概観し、概念の整理を行った時点では6つの因子を想定していましたが、抽出されたのは2因子のみでした<右:表1>。第一因子には、MFQ-9CR-ASの支援・援助に関する項目がほぼすべて含まれ、かつ、心理社会的支援として設定した項目の因子負荷量が高く、因子負荷量が相対的に低いもののキャリア支援項目が含まれています。いわば「相談や手助けをしてくれる存在」です。また、第二因子は「手本や参考になる存在」。「ロールモデル」に関連する分析項目が占めました。

さて、様々なキャリアチェンジ経験者のうち、<正社員から正社員への転職経験>のある対象者は、ネットワークの分析項目として想定した13項目について、そのキャリアチェンジに際し、何らかの相談行動をする可能性が高いことが示されました。公私ともに開発的ネットワークを保持しやすい環境にあると想定されましたが、それ以外の対象者と比べて統計的な有意差は見られませんでした。この件については、今後さらに詳しく分析する予定です。

ただし<正社員から正社員の転職経験>のある対象者711名について属性別に13項目の平均値を検討した結果、次のような知見が得られました。性別については、男性よりも女性の方が総じて高く、開発的ネットワークの持ちように、男女差が存在することが明らかとなりました。

<表2>
また、年代別にみると、総じて20代の若年層の方が値は高く、年齢が上になるほどネットワーク不在傾向になり、現在40代~50代において開発的ネットワークの不在を感じている層が多い傾向がみられました。
加えて、対象者数は少ないながら<日系から外資系に>および<起業した転職経験者>は、開発的ネットワークを高いレベルで保持している可能性があることも示唆されました<右:表2>

◆開発的ネットワークのありようからみるキャリア観の現状
本研究では、欧米のメンター研究で用いられるMFQ-9を土台に(図1)、日本における開発的ネットワークについて探索的研究を行いましたが、開発的ネットワークを保持しやすい環境にある<正社員から正社員への転職経験者>を対象に、自身のキャリアの転機をテーマとした場合でも、「キャリア支援(キャリアを積極的に切り拓こうとしている際に必要な相談や手助け)」と、「心理社会的支援(一時的な安心感を得る際の支援)への期待が、明確に分離しない結果となりました。

この結果を少し俯瞰すると、自らのキャリアの転機に際し、“主体的にキャリアを切り拓く”という態度や行動が確立しているというよりは、“キャリア転換をせざるを得ない”というストレスがまだ先行しており、「キャリア支援」と「心理社会的支援」を総合的に期待し「寄り添う対象」を求めているとの推測も可能です。

また、自らの転機に必ずしも直結しない場面、いわば“日常”において手本や参考にできる「ロールモデル」の役割も期待されているようです。なお、少数ベースながら、変化する環境が前提となる女性、若年層、日系から外資系への転職経験者、起業家などは「開発的ネットワーク」の重要性を主観的に感じ、構築を模索している可能性があると推察されました。今後、この層に焦点を置いた探索も試みる予定です。

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皆さんは、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」なるものをご存知でしょうか。社内外の公式、非公式の組織や人脈のことを指します。例えばそれは社内派閥や飲み仲間、経営者団体、業界の勉強会など形態や目的はいろいろですが、要するに情報交換をしたり、相談したり、自分と取り立ててくれる可能性のある人とつながっておくためのネットワークのことです。

この言葉の中に「ボーイズ」という語があるように、これは元来、男性を中心としたネットワークであり、女性がこの中に含まれないことから、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」の存在が、女性が出世しにくい理由であるといわれてきました。その影響は社会の中で未だ否定できないものがあると思われますが、今回の調査では大きな発見がありました。

<正社員から正社員への転職経験>のある女性たちが「開発ネットワーク」と想定されるものに対し、相対的に積極的であるということです。一方、<正社員から正社員への転職経験>がある人の中ですら、年代で比較すると40代、50代は開発的ネットワークの存在が薄くなる傾向がみられました。もちろん、<正社員から正社員への転職経験>のある人以外についても分析する必要があるのは言うまでもありませんが、40代、50代の年代に対しては、総じて人生100年時代をにらんだキャリア構築サポートの必要性を示唆する結果が見出されるかもしれません。全体分析が終了しましたら、その結果もこのブログでご報告したいと思います。

現在、私は50代半ばですが、幸運なことに「ボーイズ」だけでなく、さまざまな属性のメンバーのネットワークの中にいるおかげで、主宰する会社やNPO、メンバーとして参画している一般社団法人の活動の中で、多くのチャレンジに恵まれながら、ストレスも適当にやりくりできています。
私の人生が100年になるのかどうかはわかりませんが、そんなネットワークを、もしかして知らず知らずのうちに構築してきた?自分をも紐解きつつ、研究という手段を通して社会に発信できる存在でありたいと思っています。

      理事長 西道広美 拝

 
*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

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