2018年10月11日

発表報告Ⅰ.日本心理学会第82回大会(2018年9月25日~27日)

キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)

JR仙台駅から真西に進み広瀬川を渡ると、周囲は緑豊かな景色が目の前に広がる青葉山のふもと。そこに今年の日本心理学会の大会会場、仙台国際センターがあります。

昨年の第81回大会では「キャリアチェンジの主観的成功を形成する要因」として、転職経験者にインタビューした研究を行いました。

年は、昨年の研究をベースに「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」として、量的研究について発表いたしました。

言うまでもなく、現代は仕事・家族・教育・余暇・人口動態・テクノロジー・グローバル化・政治・経済など、社会の諸相で激しい変化が生じ、人の生き方に重大な影響を及ぼしています。
この変化を自明とし、「キャリア」という言葉は、安定した組織と雇用形態が存在することを前提とした“職務”としてより、“人生の生き方”ととらえられることがもはや自然になりつつあるでしょう。


仙台らしい彩りある会場
「仕事」という表現も然りで、より広く、多岐にわたる活動を説明しうる言葉としてとらえる人が増えています。そしてその中のひとつ、“賃金が発生する仕事”に注目すると、一生涯を一組織・一種類の仕事で人がキャリアを終えることは、若い世代ですでに過去のものになりつつあります。

キャリアに関する研究分野においても、「キャリア・プランニング」を職務とのマッチングとみる狭い定義から、個人が適応能力を高めながらキャリアの自己開発と自己管理を行うことに資するアプローチとサポートであるとみる広い定義への転換が進んでいます。

さて、今回研究テーマとした「開発的ネットワーク(Developmental Networks)」は、こうした流れの中で、一部の研究者が提唱しはじめたもの<Murphy and Kram2010)> ― 従来からの「上司・部下の関係」や組織が運用する「メンター制度」などの枠組みに収めない、個人がキャリアをはぐくむための「人脈」です。

彼らは、組織の枠組みを超え、さらに職務に関わるものであるか否かにこだわらない、複数の人的なつながり=「“個人主導”による開発的ネットワーク」と「キャリア成功」の関わりを探索しました。

そして、環境として付与される「上司・部下の関係」や「メンター」にとどまらず、個人が自律的にサポートネットワークを構成し、自分自身のキャリア開発に役立てることを提唱しています。彼らは、とりわけ職務以外の領域から構築される関係性が、キャリア成功に作用する「開発的ネットワーク」の重要な部分であることを示しています。

ただし、これは欧米で提唱されていることであり、我々がレビューした限りでは日本での研究としての展開はみられませんでした。

そこで今回は、日本における「開発的ネットワーク」の現状を探索すべく、メンタリングの分野で開発されている尺度に、我々の昨年の研究をベースにしたオリジナルの質問項目を作成し、転職経験者2,000名を対象とする調査を実施しました。
 
膨大なデータの分析はすべてを終了していませんが、このたびの学会ではまず「正社員から正社員の転職者711名」を対象とする回答の分析結果について発表をいたしました。
次号では、具体的な研究の結果についてお知らせしたいと思います。

日本心理学会の発表も回を重ねて5回目となりました。楽伝は、変化の時代に人生を生き抜くことに焦点をあてた教育プログラムの開発と実践を行っておりますが、その活動過程で得た問題意識と知見を発信する活動として、株式会社伝耕と協働し、日本心理学会年次大会における発表を続けております。

ところで当日、大会の会場では自らの発表だけでなく、新たな研究知見から刺激を得ることができました。
気温20℃ほどのさわやかな季節の中、中心地なのに空気がおいしい仙台駅周辺は、豊かな海産物や名物牛タンなど、楽しみ多いお店が軒を連ねています。5年ぶりに訪ねた仙台で、リフレッシュもできました。

 
       理事長 西道広美 拝
 

 

*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。


 

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