2019年9月26日

《後編》 蔚山大学第1学期の教室より

日本語専攻者のキャリア教育x伝版®

右のお写真は、蔚山大学で学ぶ日本語専攻の学生さんたちが学ぶ科目「日本市場開拓実務」での語り合いの様子です。

前号では「自己探索」のプロセスに『伝版®』がどのように活用されているかをご紹介しました。後編をどうぞお楽しみください!

ところで、学生の指導にあたられる小松麻美先生とは、共同研究をさせていただいた経緯があります。現在の社会状況を背景に、大学生がキャリア開発力をやしなう必要性をふまえ、日本語科目におけるライフキャリア支援の可能性を検討しました。その内容は、下記らくでんのブログでご覧いただけます。

(言語文化教育研究学会第三回年次大会にて)

◆『伝版®』を拝見しながら
さて、『伝版®』を活用した2回のセッションも含めすべての講義を終えた学生さんたち。
今回はみなさんに同意をいただき、記入した『伝版®』をらくでんチームも拝見しました。

「川のシート」「花のシート」を経て記入された「発芽のシート」からは、直近・短期・中期とタイミングをイメージしながら「日本・日本語」と「自分の人生」を対象範囲を狭めることなく模索しているご様子が伝わってきました。

とりわけ両国の関係性の現状を考えると、日本語専科の学生さんたちは、例年以上に切実に「自分と日本・日本語」の関係性を自問自答していることでしょう。
このような時期に小松先生のファシリテーションのもと、多様性を受容し活かす場を大前提にしたこの講義の場は、安心してライフキャリアに想いをめぐらし、価値観の異なる学生同士で交流できた時間として、とても大切なものだったことと拝察しています。

◆語り/ナラティブがもたらす学び
1学期の講義を終えられた小松先生に、らくでん理事・柴山がお話をうかがいました。

らくでん/柴山(以下「楽伝」): 今年度の学生さんたちのご様子はいかがでしたか。

小松先生(以下「小松」): 前半の模擬面接の課題で自分が選んだ志望先にしばられず、豊かなビジョンが、学期後半の伝版®ワークで出たケースが多かったことが印象的でした。

楽伝: たとえばどのようなケースですか。

研究室にて
小松: ある学生は当初、ホテル業界で専攻や特技を活かして働くとして、大変具体的で説得力のある自己PRを語りました。一方、自己探索した後のグループ交流では、ホテルとは関わりのない“複数の働き方”についても語ってくれました。

楽伝: どうしてでしょうか。

小松: 伝版®で自己探索し、ナラティブに他者に共有する過程で、短期的な出口目標に留まらず、中・長期的スパンでの展望を意識したり、複数の選択肢をもつことに目が向きやすくなったように思います。

楽伝: いろいろな選択肢を吟味されたのですね。今年、日本の大学のキャリア講義で感じたことですが、生まれたときからスピード感ある変化のなか育った今の学生さんは、小さく試しながら臨機応変に道を変えたり、異質ないろいろなことに同時にチャレンジするような、時代ならではのキャリアのありようを無意識のうちに、一定、前提にされていて頼もしく思います。

小松: はい、今回の学生たちにもそれをビジョンとしてナラティブに他のメンバーと共有できる学生もいました。一方で、たとえば「親」などの目上世代の価値観にあわせたり、社会の期待と本人がとらえたキャリア像にはめたキャリアビジョンに固執してしまう学生がまだ少なくありません。

楽伝: はい。分の内面の声と語り合う時間をもつことや、時代をリアルに受けとめて生きている他者と交流する機会が大切だと強く感じています。学生さんに限らないことですが(笑)

小松: そうですね。「自分の人生について人前で本気で話したのはこれが初めて!」と言っていたある学生は「いろいろな人の前で話したら、そんな人生を本当に生きたくなった。」と。

楽伝: 語った自分や自分のプランを大切に思うようになられた?

小松: 語ることで他のひとに祝福され、具体的なアドバイスを得たりしたこともですし、想いを込めて語る他の人の発表をきいて刺激を受けたことも大切だったのだと思います。

楽伝: 心が動いた、のですね。ところで、2学期にも『伝版®』を活されるとうかがいました。次はどんな場面での使われるのですか。

小松:2年生の「会話」の授業で使う予定です。学生たちは「人生(ライフストーリー)」をテーマに、それぞれ自分の「人生の先輩」にインタビューをして発表します。そのインタビューの結果を持ち寄った際に、生きていく上でのヒントやいま抱えている悩みへのアドバイスなど、インタビューを通して心にささったものを「木のシート」に投影することで、自身がインタビューで得たものを、より自身の表現におきかえて可視化することを期待しています。

楽伝:楽しそうですね。社会人の方にもよくお使いいただきますが、「木のシート」は自分を投影しやすいメタファーです。外部に発見したものを、外から借りたままでなく、「自分」でろ過し、自分ごとにして語ることをサポートしてくれます。

小松:2年生の2学期は大学生活にも慣れ、また兵役を終えて戻ってくる学生もいます。卒業後の進路(ありたい自分の姿)を見据えながら、あらためて大学生活を見直す時期ですね。『伝版®』の力を借りながら、ゆるやかに学生のライフキャリア展望を支える学習活動ができればと考えています。

楽伝:転機に人生をみつめる時期にお役に立てることがうれしいです。また折々にお話しできることを楽しみにしております!今日はありがとうございました。 


*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

Copyright © 2013 Rakuden. All rights reserved