2016年3月17日

楽しむことの価値

創造的活動が生まれる磁場づくりへ

「知識」の位置づけが大きく変わろうとしています。
知識は「蓄える」という動詞とセットで語られ、その主語は「人間」であり、長らくそれが個人の
価値を決める重要な基準。だからこそ人々は知識を貪欲に求め、蓄え、知識があることで称賛され、尊敬され、或いは早く昇進し、商売すれば成功し、自信もつく・・・「知識を司る」は人間の特権。
ーこうしたことも過去の話となるでしょう。

仁王(一心寺)と向き合い
人間らしい行(生)き方を想う
知識は「蓄える」ものから、絶えず「更新」するものへ。そんな時代の到来です。莫大なデータ、ノウハウ、分析、マクロな対象からミクロな対象までの適用等々についてのあらゆる知識。そしてその巨大な「蓄積」と同時に始まるすさまじいスピードでの「更新」。人間ではもう手に負えません。
AI(Artificial Intelligence)が知識を
司る主体となる時代がすぐそこまで来ています。

◆「人間の仕事」とは何か?
人々のキャリア開発支援を軸に展開してきた我ら楽伝は、昨夏のブログエントリーで
「人間の仕事」とは何か?という問いかけを行い、その問いを意識した活動をも展開していくことをお知らせしました。AIの進化により、「人間の仕事」の種類・中身が変わることは必至。その時、人間は知識ではない何を司るのでしょうか?

AIArtificial Intelligence)の“I=Intelligenceの出現を前提とした未来予想の多くの記述では、人間が司るものは「創造的活動」であるとされていました。
折しも、「囲碁界の魔王」とまで呼ばれたイ・セドル九段が、グーグル系列会社が開発したAlphaGoというプログラムとの5番勝負で負け越したことが話題になっています。AlphaGoは、「過去の棋譜の膨大な分析による判断」を身につけ、その「判断」を身につけたプログラム同士が戦うことによってさらに「実戦経験」を積み、「新たな判断の形を見つけていく」という形で強くなったと言われています。ここでのポイントはAlphaGoが「新たな判断の形を見つけていく」能力を有することであり、それはもう人間固有の能力であると「信じたかった」創造力という領域に踏み込んでいることを意味します。
つまり、AIはすでにある種の「創造的活動」を実践する存在なのです。

◆楽伝の考える「人間の創造的活動」
AIがある種の創造的活動を実践する存在ならば、「人間の創造的活動」とは何か?
AlphaGoの勝利により、この新たな問いが生まれました。(今のところは人間によってもたらされている)全世界の「知」がこの問いにチャレンジすべく議論が沸き起こるでしょう。
問いに対する直接の解ではないものの、関わる答えの一つは「人が《遊ぶ》こと」の中にある、と
楽伝は考えます。
「人は一生涯、遊び続ける態度を持ち、行動することで、AIとの存在を分かつ」と。

AIは《遊ぶ》?
いえ、AIはミッションを前提とした試行錯誤までが限界でその先はないでしょう(もしくは「今のところは人類の幸せのために」そうあるべきと信じましょう)。
しかし人間は、ミッションを越えて《遊ぶ》。《遊び》はミッションにではなく、人間の内発的な動機に紐づいているので、決まったルールや枠組みをやすやすと越える。この《遊び》の存在が「AIが想定する領域内では不可能な何か新しいことをAIよりも早く生み出す」素地、つまり「人間らしい創造性」を耕すことにつながると考えています。

《遊ぶ》ことは言い換えれば、試行錯誤を「楽しみながら続ける」プロセスです。あるルールの下にあってスコープが明確な範囲で何かを続けるのではなく、内発的に動機付けられ、直感に支えられ、あれはどうか、これをしたらどうなるか、予期されない展開を次々と呼び込み、新しい何かを生み出していきます。

子どもは遊びながら、試行錯誤を経て、さまざまなことを楽しんで学び、生きていく術を身に着けていきます。いきいきと遊ぶ子どもは疲れを知らず、実にはつらつとしています。
ところが大人になると「あまり遊ばなくなる」。つまり、生きていく術が「“知識”のセット」として「蓄積」されたまま更新されない。世の中は変わり、下手をすればこれまでの知識が己の足かせになりかねない場合でも、「知識にすがり」遊びを忘れた存在は、楽しんで試行錯誤することをせず、新たな学びと成長の機会を失います。

◆「知識にすがる」をコントロールする
この「知識にすがる」という行動は、どうやら人間の脳の機能と関連しているようです。最近の神経科学研究によれば、人間の脳が最適な機能を果たすには「確信」が必要であり、対して「不確実性」は負荷となります。つまり、人間の脳は常に答えを求めており、「知識にすがるようにできている」のです。
 
カリフォルニア大学の心理科学者マイケル・ガザニカはこの理論の裏付けとして、左脳・右脳の接続を分断する手術を受けた患者を調査し、各半球に同じ実験をしたところ、左脳に「インタープリター(通訳)」と呼ばれる神経ネットワークが存在することを見出しました。左脳は常に解釈を行っており、望むと望まざるにかかわらず、「いつでも秩序と理屈を探している。(たとえそれが存在しない場合でも)」という状態を保持しています。
 
知識を司る存在がAI。そして(AIを作り出した存在である)人間が知識にすがってしまう機能を有しているとしたら、この「すがり機能」をコントロールしないかぎり、「人間の仕事」は消えていくのみです。「知識を標榜し、その組み合わせの中に留まる創造性」である限りにおいては、囲碁の勝負で明らかになったように、AIの方が人間よりも優秀なのですから。

「知識にすがる」のではなく、人間は「ある目的のために」活用する「何か」を、AIよりも早く見つけ続ける存在であるべきです。そのためには、AIが司る知識ではカバーしえない「未知のこと」「不確実なこと」にも取り組む「動機」を保ちつづける=つまり《遊ぶ》ことが、人間存在の根幹に関わるだろうと想定しています。
 
いかがでしょう。「人は一生涯、遊び続ける態度を持ち、行動することで、AIとの存在を分かつ」などと楽伝が大真面目に答えた意味はもうおわかりでしょう。内発的に動機付けられた状態「楽しく取り組む」という《遊び》の要素が、人間らしく生きる「何か」の発見につながっている。その「何か」が、「人間の仕事=人間らしい仕事」の創出を招く、と我らは考えているわけです。

こうして、名前の最初の一文字にの字をもつ我ら楽伝は、ビジネスや教育の場におけるキャリア開発を軸としたの訴求に留まらず、さらに「楽しさ」の要素を強く訴求する活動へと領域を広げ始めています。 手始めとして、人間が生まれ、育まれる「家庭や地域」といったコミュニティに関わる「遊びの場」を作り、その遊びの場を「創造的活動の磁場」と位置づけ、皆さんと一緒に楽しさを見出し、その体験を発信していく活動を開始しました。
「人間らしい生き方」と、「人間の仕事」とは、従来のビジネスの場で生まれるのではなく、人が育まれ生きていくリアルな場にそもそもあるのではないかという直観を軸に試行錯誤を楽しみます。
今後そんなチャレンジの模様についてもブログでご紹介していきたいと思っております。

理事長 西道 広美 拝

 

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