2018年12月21日

変化の時代、なぜいま英語インプロか

“繋がるためのスキル”をコミュニティで育む

師走の半ば、今年も訪ねた“ATD*ジャパンサミット”のテーマは“Creating a Future-Ready Learning Culture(未来に備える学習文化の醸成)”。変化し続ける時代をふまえ、組織の戦略的目標の実現に向けた“学びの変化”の重要性とそのグローバルでの先端ナレッジを共有する場となりました。

個人の学びを、多様な個人それぞれに応じる方法で促進するHRテクノロジーや、他者との関わりや体験の中に学びを得ることも含め、多様な学び方を統合する学習の捉え方への知見も共有されました。
*ATD(The Association for Talent Development): 120か国以上に会員を持つ、人材開発の領域で世界最大級の組織。日本では4年前から人財開発・組織開発の分野でのグローバル先端ナレッジと事例を共有するコンファレンス「ATDジャパンサミット」を開催。内外の人材開発プロフェッショナルを講師に、変化し続ける時代を前提に、新たなHRテクノロジーや組織の事例が共有される場。

◆HOWの育成に必要な非認知的スキル
1年の終わりに“ATDジャパンサミット”に身を置くことは、自分たちの現在地を感じる機会であり、次の一年のフォーカスを確認するひとときとなっています。ATD プレジデント兼CEOTony Bingham氏は、時代の変化が人々のキャリア開発と組織開発に与える影響を例示して参加者と共有した上で、変化を予測する必要性を認めつつも、「WHAT(完全予測は不能な“これからどのような変化が起きるか”)」より「HOW(変化に直面したときにどのように対応・適応するか)」がキーであることを丁寧に語られました。適応し生き抜いていくためのHOWの創意工夫・スキル開発マネジメントが組織単位・個人単位でますます重要になっていることを、Bingham氏のメッセージにもあらためて確認しました。
 
スキルといってもその幅は広く、変化に対応・適応する際に必要なスキルは、認知的なスキルと社会情動的なもの ―これはいわゆる「非認知的スキル」として最近脚光を浴びているものですが― に概念的に分けられますが、重要なことは両者の相互補完的な関係性です。
ところで、この両スキルの相互補完性がうまくブレンドされている形について思いをはせると、つい先日、岡山県の奈義町で開かれた『らくでん式英語インプロ』のワークショップの模様が思い起こされました。

◆人と繋がることで変化に対応する
個人が変化に適応すべく自らのスキル領域を広げることが必要な一方、個々人が努力するばかりでは変化に対応しきれません。

変化激しい時代を生き抜く力とは、変化のただ中で自分と同じ場に居合わせた「背景の異なる多様な他者と即興的につながり、協働できる力」。― このような非認知的スキルを養う機会を、だれもが楽しく身近なものにできることを願い、楽伝は“遊んで身につく、即興英語ワークショップ”である『らくでん式英語インプロ』を開発・展開してきました。

◆長い時代を経てきた演劇の資産を活かして英語を学ぶことの意味
インプロ(improvisation/インプロビゼーション)とは、そもそも演劇に由来する、台本の無いパフォーマンス(即興演技)。既成概念にとらわれず、予測し得ないその場の状況・相手にすばやく応じ、今の瞬間をいきいきと生きながら、複数のメンバーと共通のストーリーをつくっていくこと、またその力をさします。つまり、インプロとは非認知的スキルそのもの、およびそのトレーニングであるといえます。

演劇界においてエチュードとして長い歴史をもち、さまざまなフィールドで磨かれてきた「インプロビゼーション(即興演技)」の手法に力を借りることで非認知的スキルを育み、一方で“英語”という「外国語(自分のものとは異なる文化・価値観・習慣を内包した言語)」を認知的なスキルとしての自らのツールにする。
―  らくでん式英語インプロのプログラムは、こうした《英語xインプロ》のフレームワークの中で進みますが、それゆえ認知的スキルと非認知的スキルを相互補完的に育成する場となります。

『背景の異なる他者とコミュニケーションする(=即興的に伝え合う)』場面を仮設定し、やってみることのできる体験として提供することで、参加者は、日常の不安感(羞恥心や評価への恐れ)と自分を“切り離し”、失敗を恐れず安全にチャレンジすることが可能になります。これは認知的スキルと非認知的スキルが相互補完的に作用しあった結果であるといえましょう。

◆コミュニティが内外と繋がる幅広いスキルを育む
完全予測は不能な時代だからこそ“不確かな、複雑で曖昧な、混沌とした状況に対する適応力”を育めるか否かは、その組織の持続可能性に直結してくる ― それは冒頭にふれた“ATD*ジャパンサミット”に多く来場されていた「企業」という組織ではもちろんですが、地域という社会組織である「コミュニティ」においても同様です。

これまでの時代を支えてきて今を担う住民層と、この先の時代を支える子どもや若者、新たな住民や滞在者たちが、自らの意思を多様な人々に伝えるために不可欠な即興性を伴う表現力”をともに体験を通じて育むことは、コミュニティがその魅力を内外に発信し、都市もとびこえ外部とつながり、選ばれ、生き残る存在となる力になることでしょう。

昨年度から関わらせていただいているコミュニティ・奈義町(岡山県勝田郡)では、まさにそうした時代の変化を見通した“学びを育む”試みに『英語インプロ』を道具として活用いただいています。 
地域に“伝え合う力”が根を伸ばす仕掛けとなるべく、ワークショップの位置づけを吟味しながら、コミュニティの子供たちが“背景の異なる他者とコミュニケーションする力”を持続可能な形で育めるよう、地域人材の育成も含め、取り組みが進んでいます。

つい先日開催された3回目のワークショップではいよいよコミュニティの方々が、参加者としてのみならず、ワークショップの進行役として参画されました。その模様は、1月中旬にお届け予定です。どうぞお楽しみに!

◎お知らせ◎
20181228日(木)より201916日(日)まで、年末年始のお休みをいただきます。

 
楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。



2018年11月30日

開催報告「英語を知らなくても大丈夫!英語ゲームで世代を超えて楽しく交流ワークショップ」

【平成30年度子ども夢基金助成活動】徳島県/板野町 徳島県立総合教育センターにて

写真はワークショップのひとこま「なりきり動画」ゲームより♪
お題は「徳島のおまつり」です。
なるほど!あのポーズですね。
 
ここは四国・徳島県の北東部、人口5600世帯のみなさんが暮らす板野町。

日本一の生産量を誇る春にんじんの種まきがちょうど進んだころで、町内のあちこちでビニールシートがぴーんと美しく張られたばかりの畑を目にしました。そして果樹畑では、実りの時期を迎えた名産の柿の実がたわわ!

私たちが到着したのは、ワークショップ前日の夕暮れ時。地元のみなさんにはいつもの光景でしょうが、しずむ夕陽にどちらの畑も映え、ほんとうに美しい姿でした。

さて、翌1111日(日)も秋晴れのきもちいいお天気になりました!
 
13時を過ぎると、町の小高い丘の上にある徳島県立総合教育センターの一室に、小学2年生から6年生のこどもたち、そしておかあさんやおとうさん、この地域で子どもたちの英語教育に関わる先生方など、参加するみなさんが集まってくださいました。

まずは、ウォーミングアップにいくつかのミニワークを!
 
Stop! - ファシリテータからバトンを受けた小学6年生の女の子が声をかけると、たくさんの顔が一瞬フリーズしかけた?!と思ったらみんな、わらわらぞろぞろと“歩き”はじめます。

つぎに Walk!と声がかかると? - はい、みんな“止まり”ました。

じゃぁ、つぎは Jump!” あ、みんなくるくる回り出した~。

 Turn!  ~ 跳ねてる、跳ねてる!

そう!あべこべアクションです。
さらには、身近なあいさつ表現をつかった「あいさつさんぽ」でカラダを動かすところから、この日のワークショップは始まりました。

◆きもちをプラス!
続いては、チームにわかれてのジェスチャーゲーム♪
今回はいろいろな動物をジェスチャーで表現します。ポイントは“きもちをプラス!”

最初のお題は「ペンギン」 ― そしてこのペンギン、「とってもねむ~い」んです(笑)
ファシリテータの掛け声で、かわいいペンギンたちがいっぱい、ちょこちょこ、よちよち!
歩きながら「眠いのって、どうやって表現しよう」と考えるペンギンさんたち。
少しすると、つばさで目をこすり始める子ペンギン、立ったままうつらうつらこっくりしはじめるペンギン。歩きながらこっくりしている子も!
思い思いに「眠いよ~」のきもちを表現してくれました。

チームを交替して今度のお題は?
おっ、なにやら胸をはり、腕をふってドラミングしてますよ~。

「さる?」「Monkey?
Close!」「So Cloes!

さらにからだをつかって
筋肉隆々“野性味”を演じるみなさん!

Gorilla?」「ゴリラ!!」
Bingo!」「Got it!!

でも、どんなゴリラだろう?!
おーっとここで、名演が続々と・・・
ほおをふくらませ、眉を寄せ、ドラミングがはげしくなります!!

「怒ってるゴリラや~」
Bingo!

普段以上に顔や体の筋肉をつかって気持ちを表したり、相手の顔に意識を向けると気持ちが伝わってくることを実感したり。ほんの数分の体験ですが、さらに“発話”への準備が進みます。

◆おどらにゃそんそん♪
お次は『なりきり動画ゲーム』。
その場で思いついたもの・人になりきって表現する「正解がない(○×の評価がない)」ワークです。この日のお題は「学校」「お正月など。

観客のみんなは、Who are you?  Whats re you doing? のフレーズでなりきってくれた役を俳優さんたちにたずねます。

「学校」チームからは、日直さんに、授業中の生徒さん、自称天才少年、おとなおふたりで完成した校門などが登場!

「お正月」チーム少年チームによるもちつき新年のお願いごと中の6年生お寺で鈴をならすパパさん!そして、ファシリテータが「田植え作業」と見間違えたのは―スミマセン!(笑)― この日、随所で名演技の光ったアクターによるIm playing Karuta!(かるた遊び)でした!

さいごは全員ご当地の「お祭り」を紹介してもらいました。
射的で賞品ゲットの男の子!獅子舞!太鼓!そして、こどももおとなもおどらにゃそんそんの阿波踊り!とりわけ、阿波踊りのみなさんの足と手の所作のしなやかさ、躍動感、うつくしさはさすが!冒頭の写真のとおりです。
すっかり見入ったらくでんスタッフたちは思わずアンコールをお願いしたのでした。

◆お気に入りを発信する!
ところで四国というと、お遍路さんの四国霊場八十八箇所巡りも有名ですね。
板野郡には4つの札所~板野町に第三番「金泉寺」、第四番「大日寺」、第五番「地蔵寺」が、おとなりの上板町に第六番「地蔵寺」~があります。
最近は海外からのお客様も増えているとのこと。らくでんスタッフも滞在中、外国から旅行に来られている方々にお会いしました。

そこで、ワークショップ後半は「もし海外からのおきゃくさまと出会ったら!」という想定で、住み暮らすなかで、自分が思い入れをもつようになった“お気に入り”を選んで、紹介するワークにチャレンジ!

英語にふれはじめたばかりの子どもたちが多く、また、こどももおとなも、ひとりひとり英語への興味・親しみ・習熟度が異なります。そんな場だからこそ、「だれか」が「ひとつの正解」を教えるのではなく、おたがいの興味やわかることをもちよりながら、カタチをつくっていきます。
こどももおとなも、ファシリテータたちも、みんなで力をあわせて準備!― 親子で、よそのおとなの力を借りて、おとな同士で、子供同士が・・・なんでもありです。

こうして参加者のみなさんと個別にお話しながら過ごすひとときは、らくでんのファシリテータたちにとってもとりわけ楽しく、学びの多い時間でした。

練習タイムを経たのち、最後は地域で子どもたちの英語教育に関わる先生方に外国人ゲストになりきっていただき(名演ありがとうございました!)、各チームの発表タイム。ひとりひとり、それぞれのペースでやりとげたこどもたちでした。

まとめに、この日のリフレクション(振り返り)をし、子供たちだけでなく、おとなのみなさまからもいろいろなお声をいただき、ワークショップは終了しました。

It is fun! また参加したい。
いろんな英語が知って楽しかった。
・楽しかった!ゲ-ムを今日来てない友だちにおしえて、みんなとやりたい!
・最初はきんちょうしたけど、楽しくできた。
・またあったら来たいです
・今日は楽しかったです。いろんな英語をまなんだから、これからいかしていきたいです。
・英語を好きになれるように、楽しく教えてくださり大変ありがたかったです。子どもたちが英語に親しめる時間をありがとうございました。
・子供といろいろ一緒に勉強させてもらいました。楽しかったです!機会があればまた参加したいです。

◆まぜまぜの力
こどももおとなも、年齢・性別・国籍・心やからだの状態や発達段階が同じかちがうかを問わず、感じ方や好奇心の対象は人それぞれ。

アイディアを想いつくのが得意な人もいれば、なにか想像して考えること自体が苦手という人も。人前で表現するのが大好きで一番のりする人もいれば、気が重い人も。気持ちはあっても動きづらい日もあるだろうし、とりわけ学童期の子供たちは“いまはいろいろと気恥ずかしい”時期なことも。

らくでんの「場」は、そんないろいろな人がそれぞれのあり方でチャレンジしたり、うっかり楽しめちゃう場になることを大切にしています。水先案内人となるらくでんのファシリテータたちは、けして先生ではありません。その場にいる参加者みなさんのお力をかりて “遊んで身につく、即興英語ワークショップ”をいっしょに実現しています。
ご一緒してくださった徳島のみなさん、ありがとうございました!

なお、今回のイベント実現には、(独)国立青少年教育振興機構「子ども夢基金」の助成をはじめ、地域の小学生の保護者のみなさま、地元の小学校関係者のみなさま、こどもたちの英語教育に携わる先生方にご協力をいただきました。ありがとうございました。

*子どもゆめ基金(独立政法人国立青少年教育振興機構)
国と民間が協力して子どもの体験・読書活動などを応援し、子どもの健全育成の手助けをする基金。
未来を担う夢を持った子どもの健全な育成の一層の推進を図ることを目的に、民間団体が実施する特色ある新たな取組や、体験活動等の裾野を広げるような活動を中心に、様々な体験活動や読書活動等への支援が行われています。当法人は2017年度の大阪府阿倍野区でのワークショップ開催に引き続き、子ども夢基金助成活動として企画を実施いたしました。


◆各地でのワークショップの模様
>岡山県奈義町・奈義町教育委員会主催:出生率日本トップクラスのまちでのワークショップ
>子ども夢基金助成事業:英語ゲームで世代・国を超えて楽しく交流ワークショップ2017
>大阪府泉南郡:中学生とインドネシアからのみなさんと!
>福島県白河市:えいご、たのしかった!(前・後編)
>大阪府大阪市:生き抜くための“コミュニケーション能力の素地を養う”
>大阪府貝塚市:なりきり英語ゲームでハロウィン
>大阪市天王寺区:まちがったら、おもしろくなる!(前・後編)
 
◆当法人について
>特定非営利活動法人
 楽しく伝える・キャリアをつくるネットワーク(愛称:楽伝/らくでん)
>楽伝/らくでんのさまざまな活動のご紹介:これまでの歩み

 ◆らくでんの最新ニュースは下記よりご覧いただけます。
【活動全般】
Homepage: らくでんのBlog
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【らくでん式英語インプロ】
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【伝版®
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*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

2018年11月7日

発表報告Ⅱ.日本心理学会第82回大会

開発的ネットワーク」からみるキャリア観の現状

“あの人は人脈が広い。”というように、生活の中で時折出てくることば -「人脈」
9月末に日本心理学会で発表した研究テーマは、平たく言うと、この「人脈」について、“現代を生きる力となる”という角度で捉えた内容でした。

自分の現状を概ね肯定できる人ならば、誰しも今日と同じ明日を無意識に期待してしまうものです。「恒常」を求める生物としてはある意味自然な姿ですが、時代は移り、我々は変化を前提として生きる存在となりました。

前号で触れたとおり今では、キャリア・プランニングとは職務とのマッチングに留まらず、個人が適応能力を高めながらキャリアの自己開発と自己管理を行うことに資するアプローチとサポートへと意味を進化させています。その現代に、キャリアが持つ特徴に即したサポートとして有効である概念として以下の3つが考えられています。

1.  レジリエンス/Resilience
キャリア変更に伴って生じるストレスの緩衝と関連しうる。
2.  キャリア・アダプタビリティ/Career Adaptability
キャリア変更をキャリア発達の一現象として捉える、予想される職業発達課題に対する個人のレディネスおよび対処能力を示す。
3.  開発的ネットワーク/Developmental Networks
組織の枠組みを超え、さらに職務関連か否かにこだわらない複数の人的なつながりに注目し、キャリア成功のための個人の開発的ネットワーク

現在我々が手掛けている研究では、この3概念の関係について、個人がキャリア変化に対応するためには「キャリア・アダプタビリティ」を高める必要があり、それに関連、および、それをサポートするのが「レジリエンス」と「開発的ネットワーク」であろうと考えています。その考察の第一弾として、3概念のひとつ「開発的ネットワーク」の構造について検討することを目的に分析し、今回の学会にて報告を行いました。

◆調査の概要
<図1>
調査はWebで行い、職業キャリア・生活キャリア間の移動および、各キャリア間における移動など、様々なキャリアチェンジ経験者を含む、2069歳の男女2,000名を対象としました。
質問項目は下の<図1>に示す関連で構成されています。
膨大なデータからはいろいろな調査結果がみてとれますが今回は、対象の中で<正社員から正社員への転職経験>があると答えた711名の「開発的ネットワーク」についての結果に注目しました。なお「開発的ネットワーク」に関わるものとしての主な分析項目は「メンタリング尺度, PelligriniScandura2005)」と「キャリアレジリエンス尺度,坂柳ら(2015)」を参考に作成した13の項目を想定しました<下:表1>。
  
◆結果
<表1>
まず「開発的ネットワーク」と想定されるつながりはどのように認識されているのかを知るために、その構造を検討しました。開発的ネットワークに関するこれまでの研究<Murphy and Kram2010)>を概観し、概念の整理を行った時点では6つの因子を想定していましたが、抽出されたのは2因子のみでした<右:表1>。第一因子には、MFQ-9CR-ASの支援・援助に関する項目がほぼすべて含まれ、かつ、心理社会的支援として設定した項目の因子負荷量が高く、因子負荷量が相対的に低いもののキャリア支援項目が含まれています。いわば「相談や手助けをしてくれる存在」です。また、第二因子は「手本や参考になる存在」。「ロールモデル」に関連する分析項目が占めました。

さて、様々なキャリアチェンジ経験者のうち、<正社員から正社員への転職経験>のある対象者は、ネットワークの分析項目として想定した13項目について、そのキャリアチェンジに際し、何らかの相談行動をする可能性が高いことが示されました。公私ともに開発的ネットワークを保持しやすい環境にあると想定されましたが、それ以外の対象者と比べて統計的な有意差は見られませんでした。この件については、今後さらに詳しく分析する予定です。

ただし<正社員から正社員の転職経験>のある対象者711名について属性別に13項目の平均値を検討した結果、次のような知見が得られました。性別については、男性よりも女性の方が総じて高く、開発的ネットワークの持ちように、男女差が存在することが明らかとなりました。

<表2>
また、年代別にみると、総じて20代の若年層の方が値は高く、年齢が上になるほどネットワーク不在傾向になり、現在40代~50代において開発的ネットワークの不在を感じている層が多い傾向がみられました。
加えて、対象者数は少ないながら<日系から外資系に>および<起業した転職経験者>は、開発的ネットワークを高いレベルで保持している可能性があることも示唆されました<右:表2>

◆開発的ネットワークのありようからみるキャリア観の現状
本研究では、欧米のメンター研究で用いられるMFQ-9を土台に(図1)、日本における開発的ネットワークについて探索的研究を行いましたが、開発的ネットワークを保持しやすい環境にある<正社員から正社員への転職経験者>を対象に、自身のキャリアの転機をテーマとした場合でも、「キャリア支援(キャリアを積極的に切り拓こうとしている際に必要な相談や手助け)」と、「心理社会的支援(一時的な安心感を得る際の支援)への期待が、明確に分離しない結果となりました。

この結果を少し俯瞰すると、自らのキャリアの転機に際し、“主体的にキャリアを切り拓く”という態度や行動が確立しているというよりは、“キャリア転換をせざるを得ない”というストレスがまだ先行しており、「キャリア支援」と「心理社会的支援」を総合的に期待し「寄り添う対象」を求めているとの推測も可能です。

また、自らの転機に必ずしも直結しない場面、いわば“日常”において手本や参考にできる「ロールモデル」の役割も期待されているようです。なお、少数ベースながら、変化する環境が前提となる女性、若年層、日系から外資系への転職経験者、起業家などは「開発的ネットワーク」の重要性を主観的に感じ、構築を模索している可能性があると推察されました。今後、この層に焦点を置いた探索も試みる予定です。

= = = = = = =

皆さんは、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」なるものをご存知でしょうか。社内外の公式、非公式の組織や人脈のことを指します。例えばそれは社内派閥や飲み仲間、経営者団体、業界の勉強会など形態や目的はいろいろですが、要するに情報交換をしたり、相談したり、自分と取り立ててくれる可能性のある人とつながっておくためのネットワークのことです。

この言葉の中に「ボーイズ」という語があるように、これは元来、男性を中心としたネットワークであり、女性がこの中に含まれないことから、「オールド・ボーイズ・ネットワーク」の存在が、女性が出世しにくい理由であるといわれてきました。その影響は社会の中で未だ否定できないものがあると思われますが、今回の調査では大きな発見がありました。

<正社員から正社員への転職経験>のある女性たちが「開発ネットワーク」と想定されるものに対し、相対的に積極的であるということです。一方、<正社員から正社員への転職経験>がある人の中ですら、年代で比較すると40代、50代は開発的ネットワークの存在が薄くなる傾向がみられました。もちろん、<正社員から正社員への転職経験>のある人以外についても分析する必要があるのは言うまでもありませんが、40代、50代の年代に対しては、総じて人生100年時代をにらんだキャリア構築サポートの必要性を示唆する結果が見出されるかもしれません。全体分析が終了しましたら、その結果もこのブログでご報告したいと思います。

現在、私は50代半ばですが、幸運なことに「ボーイズ」だけでなく、さまざまな属性のメンバーのネットワークの中にいるおかげで、主宰する会社やNPO、メンバーとして参画している一般社団法人の活動の中で、多くのチャレンジに恵まれながら、ストレスも適当にやりくりできています。
私の人生が100年になるのかどうかはわかりませんが、そんなネットワークを、もしかして知らず知らずのうちに構築してきた?自分をも紐解きつつ、研究という手段を通して社会に発信できる存在でありたいと思っています。

      理事長 西道広美 拝

 
*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

2018年10月11日

発表報告Ⅰ.日本心理学会第82回大会(2018年9月25日~27日)

キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)

JR仙台駅から真西に進み広瀬川を渡ると、周囲は緑豊かな景色が目の前に広がる青葉山のふもと。そこに今年の日本心理学会の大会会場、仙台国際センターがあります。

昨年の第81回大会では「キャリアチェンジの主観的成功を形成する要因」として、転職経験者にインタビューした研究を行いました。

年は、昨年の研究をベースに「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」として、量的研究について発表いたしました。

言うまでもなく、現代は仕事・家族・教育・余暇・人口動態・テクノロジー・グローバル化・政治・経済など、社会の諸相で激しい変化が生じ、人の生き方に重大な影響を及ぼしています。
この変化を自明とし、「キャリア」という言葉は、安定した組織と雇用形態が存在することを前提とした“職務”としてより、“人生の生き方”ととらえられることがもはや自然になりつつあるでしょう。


仙台らしい彩りある会場
「仕事」という表現も然りで、より広く、多岐にわたる活動を説明しうる言葉としてとらえる人が増えています。そしてその中のひとつ、“賃金が発生する仕事”に注目すると、一生涯を一組織・一種類の仕事で人がキャリアを終えることは、若い世代ですでに過去のものになりつつあります。

キャリアに関する研究分野においても、「キャリア・プランニング」を職務とのマッチングとみる狭い定義から、個人が適応能力を高めながらキャリアの自己開発と自己管理を行うことに資するアプローチとサポートであるとみる広い定義への転換が進んでいます。

さて、今回研究テーマとした「開発的ネットワーク(Developmental Networks)」は、こうした流れの中で、一部の研究者が提唱しはじめたもの<Murphy and Kram2010)> ― 従来からの「上司・部下の関係」や組織が運用する「メンター制度」などの枠組みに収めない、個人がキャリアをはぐくむための「人脈」です。

彼らは、組織の枠組みを超え、さらに職務に関わるものであるか否かにこだわらない、複数の人的なつながり=「“個人主導”による開発的ネットワーク」と「キャリア成功」の関わりを探索しました。

そして、環境として付与される「上司・部下の関係」や「メンター」にとどまらず、個人が自律的にサポートネットワークを構成し、自分自身のキャリア開発に役立てることを提唱しています。彼らは、とりわけ職務以外の領域から構築される関係性が、キャリア成功に作用する「開発的ネットワーク」の重要な部分であることを示しています。

ただし、これは欧米で提唱されていることであり、我々がレビューした限りでは日本での研究としての展開はみられませんでした。

そこで今回は、日本における「開発的ネットワーク」の現状を探索すべく、メンタリングの分野で開発されている尺度に、我々の昨年の研究をベースにしたオリジナルの質問項目を作成し、転職経験者2,000名を対象とする調査を実施しました。
 
膨大なデータの分析はすべてを終了していませんが、このたびの学会ではまず「正社員から正社員の転職者711名」を対象とする回答の分析結果について発表をいたしました。
次号では、具体的な研究の結果についてお知らせしたいと思います。

日本心理学会の発表も回を重ねて5回目となりました。楽伝は、変化の時代に人生を生き抜くことに焦点をあてた教育プログラムの開発と実践を行っておりますが、その活動過程で得た問題意識と知見を発信する活動として、株式会社伝耕と協働し、日本心理学会年次大会における発表を続けております。

ところで当日、大会の会場では自らの発表だけでなく、新たな研究知見から刺激を得ることができました。
気温20℃ほどのさわやかな季節の中、中心地なのに空気がおいしい仙台駅周辺は、豊かな海産物や名物牛タンなど、楽しみ多いお店が軒を連ねています。5年ぶりに訪ねた仙台で、リフレッシュもできました。

 
       理事長 西道広美 拝
 

 

*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。


 

2018年9月26日

発表を終えて

日本グループ・ダイナミックス学会大会「コラボ・リクエスト企画」

先日98日(土)、日本グループ・ダイナミックス学会65回大会にて実施された「コラボ・リクエスト企画」で、英語のインプロビゼーションワークショップ『らくでん式英語インプロ』に関する発表に伺ってきました。
 
日本グループ・ダイナミックス学会は、集団における個人の態度変容など ― 集団現象においてとらえにくい変容を心理学的に解明する実験社会心理学を軸とする学会です。
心理学、教育心理学、教授法、コミュニケーション等々、多様な専門テーマをもつ研究者の方々が属していることが特徴のひとつです。

当日、まずは『らくでん式英語インプロ』がねらいとするところにご関心が集まりました。
 
これまでに観察できている参加者の変容や、開催地域や対象の違いによる影響、既存の英語教授法や、当プログラムと同様に新たなチャレンジとして日本でも実施例がみられるようになった他の先進的教授法とのちがいなど、熱心にご質問を頂戴し、意見交換をさせていただきました。
 
その上で、それぞれの専門領域の視点から、プログラム手法の効力をより深く観ていく上での課題や、可能性ある着手点のありようについて、具体的なご意見をいただきました。

また、
「母国語でない言語・異文化をどう学ぶかに伴うハードルをよく認知し、対応したアプローチであり、英語で苦労しているおとなにも受け入れられる。」

「コミュニケーション力そのものに働きかけうることから、コミュニケーション不全をはじめ多様な個性の人々に対して可能性を感じる。」
といったコメントも頂戴しました。

にぎわうコラボ・リクエスト企画/
ポスター発表会場
実験社会心理学をご専門とするみなさまからこうしたご感想をいただき、たいへん励みになりました。

今回は限られたお時間にもかかわらず、多様な研究テーマに取り組んでおられるご来場のみなさまと交流し、今後の取り組みの検討に役立つ多くの刺激をいただきました。

発表の機会をいただいた日本グループ・ダイナミックス学会と、ご来場いただきましたみなさまに心より感謝致します。
 
 = = = = = = =
 
◆『らくでん式英語インプロ』
>開催済みのワークショップの一例はコチラ

>次回開催のご案内はコチラ

 
楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

 

2018年8月31日

日本心理学会第82回大会にて発表を致します

「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」
9月26日(水)宮城県仙台市にて

31回国際心理学会議・80回日本心理学会大会にて
2018925日(火)~ 27日(木)
日本心理学会第82回大会が宮城県仙台市(開催校:東北大学、会場:仙台国際センター)で開催されます。 

楽伝*は大会第2日目、926日(水)午前、「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」と題し、一般研究発表を実施いたします。

 *『楽伝/らくでん』は 特定非営利活動法人楽しく伝える・キャリアをつくるネットワーク の愛称です。
 
当法人、
楽しく伝える・キャリアをつくるネットワーク
コミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ
子どもたちから社会人まで さまざまなライフステージにある人々が
「生き抜く力」をやしなうことに資することをめざし、活動しています。

>特定非営利活動法人設立の経緯はコチラ

個人の内発的な力を引き出す“楽しさ”の要素を重視した独自の手法やツールを取り入れ、
独自のプログラムを研究・開発し、展開しています。       

4歳から60代まで みんなで英語インプロ♪
(岡山県奈義町)
チームビルディング、キャリア構築力養成、
外国語学習、多文化共生、地域コミュニティの活性化・・・多様なテーマでのワークショップは、
好奇心が駆動するアクティブラーニングの場です。          
 
また、活動の過程で得た問題意識と知見の発信を重要と考え、株式会社伝耕と協働し、日本心理学会年次大会にて発表活動を行ってまいりました。

大会での発表を始めて5年目となる今回は、
「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究」について発表させていただきます。

転職経験等のキャリアチェンジ経験者を含む対象者2,000名への調査を実施し、組織に頼らずに個人でキャリアを切り拓く時代に役立つ「開発的ネットワーク」の構造について整理した結果からの学びを発表いたします。 

 >楽しく伝える・キャリアをつくるネットワークについてはコチラ

◆発表スケジュール
テ ー マ :「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」
発表番号: 2AM-014

発表日時: 2018926日(水)
               9:2011:20

発表形式: 一般研究発表(ポスター発表)

会    場  : 仙台国際センター 展示棟
       展示室「ポスター会場」
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さまざまなお立場でこのフィールドに関わっておられる専門家の皆さまと出会い、刺激をいただくことを、理事長・西道広美はじめ、スタッフ一同、楽しみに致しております。

当日の様子や学びについては後日、ブログにてご報告させていただきます。


◆ご参考:これまでの発表
発信力を促進する
グラフィックツール『伝版®
キャリアチェンジの主観的成功を形成する要因
  (2017年 日本心理学会第81回大会 in 久留米市)

キャリアチェンジャー(転職経験者)に学ぶ転換力  (2016年 第31回国際心理学会議・
  日本心理学会第80回大会 in 横浜市)

大学生のキャリア開発における自己能力見過程
  (2015年 日本心理学会第79回大会 in 名古屋市) 

コミュニケーション教育に資するグラフィックツールファシリテーションにおけるグラフィックツールの使用の効果
 (2014年 日本心理学会第78回大会 in 京都市)


*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。
 
  
 

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