2019年10月24日

発表報告Ⅰ. 日本心理学会第83回大会(2019年9月11日~13日)

開発的ネットワークに関する探索的研究(2)
~開発的ネットワークの検討~


今年の日本心理学会年次大会は、立命館大学総合心理学部が主催校となり、“OIC”と呼ばれる大阪いばらきキャンパスで開催されました。

OICJR茨木駅のほど近くに、2016年に設立された新しいキャンパスです。
地域の中に溶け込み、社会とつながる交流拠点ともなることを新しいコンセプトのもとに造られており、塀がありません!
隣接する市の公園ともつながりあうよう。駅から5分ほど歩くと気づけばキャンパスの中。
広々とした芝生のなかを小さな子どもたちが走り回っている風景は、まさに地域と共にある立命館大学の新たな息吹を感じさせます。

さて、昨年東北大学が主催校となった仙台での第82回大会で我々は、「キャリア変化に対応する開発的ネットワークに関する探索的研究(1)」と題し、一昨年の質的研究をふまえて実施した量的なアプローチの研究結果を発表しました。
◆開発的ネットワークの検討
今年はその量的研究を下敷きに「開発的ネットワークに関する探索的研究(2)~開発的ネットワークの検討~」として、より精緻な検討を可能にする項目分析などを行って整理した内容について、新たな項目を選択しての測定も行い、その研究成果を発表しました。
たとえば、日本を代表する大手企業が終身雇用制を維持することを困難であることに言及する、企業の側から自組織に縛られることなく多様な仕事を持つことを奨励する、家事労働や家族による育児・介護などの賃金が発生しない活動の位置づけがあらためて議論される、人工知能などの技術発達により実際の現場で人間の仕事の見直しが始まる、等々。 
― 「仕事」のありよう/定義についての議論は多数見受けられます。
また、そうした議論に知識として触れるにとどまらず、個人が自分自身の体験を通じて、あるいは、家族や友人・上司・同僚・部下など身近な人が働き方を変えることを目の当たりにして、社会のあらゆる諸相で生じている激しい変化が私たちの生き方にどのように影響を及ぼすかを、個人レベルで実感するようになっています。
公園、住宅と隣り合う
地域の暮らしがすぐそこにあるOIC
このような中、我々は個人のキャリア構築のためのサポートシステムを捉えるにあたり、“組織の枠組みにとどまるキャリア構築サポート”のみを対象にするのではなく、“一個人を起点としたキャリア構築サポートの全体”を対象とし、Murphy and Kram(2010)が提唱した、開発的ネットワーク(Development Networks)という概念に注目して研究を続けています。
開発的ネットワーク(Developmental Networksとは変化激しい環境でのキャリア構築ジャンルの異なるキャリアへのキャリアチェンジと、さらには、そのキャリアチェンジが複数回起こる時代であることを想定 ― において、個人が適応能力を高めながらキャリアの自己開発と自己管理を行うために組織の枠組みを超え、さらに職務関連か否かにこだわらない複数の人的なつながり」に注目したものです。

つまりこれは、従来からの組織内での上司・部下の関係や、組織主導で運用されるメンター制度などの枠組みに収めず、個人自らが自立的にサポートネットワークを構成し、自分自身のキャリア開発に役立てる、という新しいキャリアサポートの提案でもあります。

今年の研究では、開発的ネットワークについては昨年度の調査で用いた13項目から構成される「開発的ネットワークの測定項目」を再度、用いました。これは、Pelligrini Scandura2005)によるメンタリング尺度と阪柳ら(2015)のキャリアレジリエンス尺度を参考に作成したものです。
13項目についてそれぞれ5件法で測定するとともに、「各項目内容に該当するサポートを担う存在が誰なのか」について、15パタンを用意し、回答を求めています。(対象者:20代~60代の男女2,000名 男女年齢割付・全国 調査手法:クロスマーケティングによるWeb調査)

◆主な結果より
開発的ネットワーク13項目について、各項目のサポーターの有無について男女別に比較したところ、13項目中12項目で有意性をもって女性の方がサポーターのいる割合が高く、これは昨年度の結果と同様でした。

世代別で見てみますと、男女問わずに「20代」、ついで「30代」が多くなっています。そのほかでは、退職などでキャリアの再構築と向き合うことを迫られる「60代」が散見されます。

また、世代別・男女別にみると、「男性では50代」「女性では40代」が、他の世代と比べて開発的ネットワークが少ない傾向にあり、仕事や生活に追われる多忙な世代が、自らのキャリアに対して資源を振り向けられていない状況が明らかになっています。



さらに分析を重ねたところ、「開発ネットワークがある人」の方が、自分のキャリアに満足し、これからのキャリアに対する積極性がある、という結果になりました。

まさにこれは、開発的ネットワークの意義を示唆する内容となっています。この観点については現在も次の研究に向けて、引き続き分析中です。

さて、日本心理学会の発表も回を重ねて6回目となりました。
楽伝は、変化の時代に人生を生き抜くことに焦点をあてた教育プログラムの開発と実践を行っておりますが、その活動過程で得た問題意識と知見を発信する活動を重視し、株式会社伝耕と協働し、日本心理学会年次大会における発表を続けております。

なお、今回の年次大会では2件の発表を行いました。

近くぜひ「開発的ネットワークに関する探索的研究(3)」として、「仕事観」の視点から分析・考察した結果についてもお知らせしたいと思います。

        理事長 西道広美 拝



*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。

Copyright © 2013 Rakuden. All rights reserved