先日、韓国・蔚山大学(ウルサン・蔚山広域市)の日本語学科で教鞭をとられる小松麻美先生より1学期に実施された伝版®を活用した講義の模様をお知らせいただきました。
蔚山大学での伝版®活用は3年前にスタート。
4年生対象の「日本市場開拓実務」は、グループワークや体験学習を通じて自己探索を深めるとともに、自分が関心をもっている環境に目を向け、日本市場と企業の分析に取り組み、模擬グループ面接にもチャレンジする日本語専攻科目です。
そのうちの2日間・計3時間の講義時間をあて 『伝版®』を活用し、ナラティブな手法を重視 した、
ライフキャリアデザイン力の素地を養うワークショップ を実施。
これまでの 経験をリフレクション(内省)。
これから先の駆動力となる“自分の好奇心”を再認識し
自己肯定感をもってヴィジョンを描く ことに、13人の学生さんが取り組みました!
今年度は日本語専攻者のほかにも、英語専攻や哲学専攻の学生さんや、自分の興味を追求して理系大学から受験しなおし入学した学生さんがおられたりと、多様なお顔ぶれでした。
蔚山大学キャンパス |
自分自身とのコミュニケーションを促進し、
その結果として、他者とのコミュニケーションも促進するグラフィック。
この日本語専攻科目では、限られた時間でリフレクションを深め、多様なメンバーによる「語りによる学習(ナラティブ学習)」を促進するためのツールとして、毎年利用いただいています。
今年度は「川」「花」「木」「発芽」の4種類を活用いただきました。
>>昨年度、言語教育文化研究学会第三回年次大会での発表についてはコチラ
◆ていねいに語りを引き出す4ステップ
小松先生のご指導とファシリテーションのもと、4つのステップからなるプログラムが進みました。
ワークショップ①(5月31日実施)
Step1.これまでの人生を内省し、好奇心・価値観を探索(再探索)する
まずは「川」のシートをつかって、これまでの人生のさまざまな体験を内省します。
日本語専攻の学生さんたちはスマホで日本語表現を検索したりもしながら、積極的に日本語で記入されました。
続いて自分の「川」にストーリーを見出しながら、「花」のシートに、これまで大切にしてきたことやこれから大切にしていきたいことなど、自分の価値観・好奇心に関わる要素を自己探索です。
ワークショップ②(6月14日実施)
Step2. ストーリーサークルで深める
4~5人からなる小グループ(ストーリーサークル)にわかれ、記入した伝版®「川」と「花」のシートを手元に、自分のものがたりをおひとり5分ほどの持ち時間で語りました。
今回は日本語専攻以外の学生さんもいること、また、より自分らしい表現での語りを促進することを目的に、韓国語で共有します。
伝版®に投影してきた自分を、今度は他者に語り、メンバーのリアクションも受けとめ俯瞰するうちに、自分への理解と承認が進みます。
Step3.ヴィジョンを描き、行動プランを考える
ストーリーサークルの余韻のなか、ふたたび個人ワークへ。
探索した自分の価値観・好奇心をふまえ、3~5年後のありたい自分の姿を「木」のシートをつかってイメージしていきます。
さらに「発芽」のシートを活用し、「夏休み」「2学期」「冬休み」「1年後」と段階をわけ、「木」に描いたヴィジョン実現に向けての行動計画を各自作りました。
さいごにクラス全員での大きなストーリーサークルへ。今回は日本語専攻のメンバーは日本語で、そのほかの学科生は韓国語で、ヴィジョンと行動計画を語りあい、ワークショップは終了しました。
人生について他者と語る機会などなかなかないという学生のみなさん。専攻や大学進学の経緯もちがうメンバーと、つらかったことや悩んだことも含め、どんな体験をして何を感じたか、これから先をどう考えているかを聴きあうことができてよかった!との声が多くあがりました。
Step4.体験を振り返る(課題レポート)
後日、学生さんたちは伝版®のシートを各自持ち帰り、ワークショップでの体験をあらためて振り返り、期末レポートを作成しました。
提出されたレポートからは、ワークショップから日を置いていま一度、伝版®を前にリフレクションが促進されていることがうかがえます。
自分がもつ力を再確認、あるいは勇気をもって肯定したことで、現在直面している課題の捉え方が前向きに変わったり、今後予期しているハードルに、中期的にはポジティブに挑む意欲が育まれていることが表れていました。
*ワークショップで活用した伝版®は個人に帰属することを原則として、成績処理後、希望した学生さんに返却されています。
◆ワークショップを振り返って
就職活動や進学に向いて急ぐ中、ゆっくりと自分をみつめる機会がないという4年生。試験や面談の結果に、ときには自信を喪失することも。
今回受講したみなさんの感想からは、ひととき立ち止まり、自分を再発見することで自信を取り戻した様子や、専攻・留学や就活経験の有無・日本語スキル・直面している課題など、キャリアも現在地も異なるみなさんがナラティブに交流する中で刺激を受け、ときに共感しあい励まされて過ごした、ピアメンタリングのようなその場の雰囲気が伝わってくるようでした。
・たいしたことのない人生だと思っていたが、「川」に書きだして振り返ると、これまではムダじゃなかった!と思い、自信が出てきた。私には私なりの人生のストーリーがあると思えてうれしい。
・他のメンバーの人生やビジョンを聴けて励みになった。いまは進学や就職の問題でいっぱいになっているが、それだけが人生のすべてではないと思えるようになった。
・ふだんは忙しくて自分のことをかえりみる時間がない。「花」や「木」に書いて振り返り、みんなの人生や考えにふれることで、自分について理解が深まった貴重な時間だった。
・すでに就活を始めている人の発表にとても刺激をうけた。私も堂々と表現できるよう、準備を頑張りたいと思った。
・定期的にこんな取り組みをできれば、自分の成長プロセスも実感でき、より自分らしい人生を生きることができると思う。
◆ご参考:『伝版®』使用による6つの効果(*注1)
1)「考え」を「はじめる」ことを促進する
考えることをはじめにくいのは、その端緒を見つけにくいことに起因します。
『伝版®』は、自然のモチーフをメタファーにしたフレームを与えることによって、そのフレームにそって無理なく考えはじめる(自分自身とコミュニケーションする)きっかけを提供します。
2) 作業に楽しく取り組める
『伝版®』は、難しさを感じたり、深まりにくかったりする「自己探索」のプロセスを、見ているだけでも楽しくてきれいな自然のモチーフからなるグラフィックシートにより、「より楽しく」「より楽に」進めやすくします。
つまり、「自分」をひきだし、ひもとく作業を促進します。
3) 自己肯定感を醸造する
自分の中に浮かんだものを『伝版®』に書き出して確認できることで、これまでや今の自分を祝福できるようになり、自己肯定感が育まれます。
4) 次のアクションを動機づける
『伝版®』を書き終えると、仕上がり感が小さな達成感となり、次の課題(ビジョンづくり)への動機づけとコミットメントが高まります。
5) コミュニケーションを円滑にする
『伝版®』に書き込むことで、自分自身との対話を促進するだけではなく、書き込まれた『伝版®』を紙芝居のように用い他者に説明することで、書き込んだ内容は話しやすくなり、結果、他者との交流が短時間で活発になります。
6) 他者・チームからの学びをスムーズにする
同じフレームなのに、異なる内容が書かれた他者の『伝版®』に触れることにより、他者との交流が深化し、学びが起動しやすく、その結果、自己探索もいっそう深まりやすくなります。
*注1:楽伝が携わったライフキャリア支援の場での『伝版®』の使用に関するフィードバックのコメントを整理した結果、『伝版®』を使用する効果として指摘を確認した。
(西道広美・吉田純子・西道実(2014).コミュニケーション教育に資するグラフィックツールに関する研究)
*楽伝はコミュニケーション力とキャリアの開発を両輪ととらえ、多様性と変化あふれる社会において力を発揮する人材を育てることを通じて社会に貢献します。